大阪生まれの奈良育ち。夏の高校野球観戦が楽しみです。お互いのことを何一つ知らないご依頼者と弁護士が、少しずつ距離を縮めながら、人生の一大事の解決に向かうわけですから、ていねいにお話しをうかがって心を開いていただくことの大切さを痛感しています。
自己破産における同時廃止手続きと破産管財手続きの振り分けについて
はじめに
個人の方が自己破産する場合の手続きは、細かく分類すると同時廃止手続き(破産法216条1項)と破産管財手続き(破産法31条1項)の2種類があります。この2つの手続きのうち、同時廃止の方が簡易な手続きですが、自己破産する人が希望しても同時廃止が認められるとは限らず、一定の基準により裁判所の判断で破産管財に振り分けられることがあります。このページでは、2種類の破産手続きの概要と、どのような基準で振り分けられるかについて見ていきます。
同時廃止と破産管財の概要
同時廃止というのは、破産財団をもって破産手続きの費用を支弁するのに不足すると認めるときに、破産手続開始の決定と同時に破産手続の廃止を決定する手続きです(破産法216条1項)。ただ、このような定義を見てもどのような手続きか分かりにくいと思います。そこで、自己破産する人の手続き負担という観点で見てみると、申立書等の書類のみによる審査か、書類審査+一度裁判所に出向いて免責が認められる手続きということができます(※)。

破産管財というのは、裁判所から破産管財人が選任されて、破産管財人が破産する人の財産を換価処分し、債権者に対する配当原資を確保する手続きです。これも以上の定義を見てもどのような手続きか分かりにくいと思います。そこで、同時廃止と同じく自己破産する人の手続き負担という観点で見ると、書類審査だけでは免責が認められず、破産管財人による財産調査・免責の可否などの詳しい調査への協力が必要になり、破産管財人事務所と裁判所にそれぞれ1回ずつは出向く必要がある手続きということができます。
このように、同時廃止と破産管財では、裁判所等に出向く負担や財産調査等に協力する負担などの点で、同時廃止の方が負担が軽いと言えます。また、同時廃止の方が、弁護士費用や裁判所に納める予納金の負担が大幅に軽くなります。そのため、破産する人にとっては、可能であれば同時廃止で手続きを進めたいところです。ただ、破産する人が希望しても同時廃止が認められるとは限らず、一定の基準により、破産管財に振り分けられることがあります。そこで、ここからはどのような基準で同時廃止と破産管財に振り分けられているかについて見ていきます。
同時廃止と破産管財の振り分け基準
同時廃止として処理が認められるためには、大阪地裁では以下の⑴⑵の基準を満たす必要があります。
⑴ 現金+普通預貯金が50万円以下であること
⑵ 個別財産が、以下の①~⑫ごとにすべて20万円未満であること
No | 個別財産 |
① | 預貯金(普通預貯金を除く) |
② | 保険の解約返戻金 |
③ | 積立金等 |
④ | 賃借保証金・敷金の返戻金 |
⑤ | 貸付金・求償金等 |
⑥ | 退職金 |
⑦ | 不動産 |
⑧ | 自動車 |
⑨ | 自動車以外の動産(貴金属・着物・電化製品等) |
⑩ | 株式・会員権等①~⑨以外の財産 |
⑪ | 近日中に取得が見込まれる財産 |
⑫ | 過払金 |
また、⑴⑵の要件を満たした場合でも、以下の①~⑤の場合には、破産管財事件になることがあります。
No | 破産管財事件になるケース |
① | 破産をする人が個人事業者である、または、個人事業者であった(個人事業者型) |
② | 破産をする人の資産等を調査する必要がある(資産等調査型) |
③ | 破産をする人に偏頗行為や財産減少行為の存在が窺われるために、破産管財人による否認権行使を検討する必要がある(否認対象行為調査型) |
④ | 破産をする人が法人代表者である、または、法人代表者であった(法人代表者型・法人併存型) |
⑤ | 破産をする人に免責不許可事由があり、裁量免責をするには破産管財人の指導監督等を行う必要がある(免責観察型) |
以上の基準で、個人の自己破産は同時廃止と破産管財に振り分けられることになります。次は、上記⑴・⑵①~⑫に記載した財産について、どのようにしてその価値を評価するかを見ていきます。
同時廃止・管財事件振り分けの際の財産の評価方法
⑴ 現金・預貯金
手持ち現金と預貯金残高で評価します。
⑵ 保険の解約返戻金
生命保険や火災保険の解約返戻金は、額面が財産と扱われます。
契約者貸付を受けている場合は、貸付分を控除した解約返戻金の残額が財産として扱われます。例えば、解約返戻金が50万円ある生命保険について、35万円の契約者貸付を受けている場合は、15万円だけが財産として扱われます。この場合、個別財産としては20万円未満のため、他の問題がなければ同時廃止に振り分けられます。
⑶ 積立金等
社内積立・財形貯蓄等がある場合、額面が財産として扱われます。
⑷ 賃借保証金・敷金の返戻金
賃借保証金・敷金のうち、居住用物件の敷金返還請求権は、敷金の額から滞納賃料を控除し、さらに原状回復費用等を考慮し60万円を控除した金額が財産として扱われます。居住用物件で80万円以上の敷金が必要になるケースはあまりないと考えられるため、居住用物件の敷金があることで破産管財に振り分けられることはほとんどありません。
事業用不動産の敷金の場合は、敷金の額から滞納賃料と原状回復費用相当額を引いた金額が財産となります。居住用物件の敷金と異なり、簡易な控除は認められません。
⑸ 貸付金・求償金等
破産をする人が、他の人にお金を貸していたり、保証債務を支払って主債務者に対する求償権を有しているときは、額面額が財産になります。ただし、貸付先の人が破産をしていたり、行方不明であるなどで回収できる見込みがないときは、財産価値は0円になり、他の問題がなければ同時廃止への振り分けが可能です。
⑹ 退職金
退職金は、自己都合退職した場合の額面の8分の1が財産として扱われます。そのため、退職金は原則として160万円未満であれば、他の問題がなければ同時廃止に振り分けられます。
退職金について、額面額より大幅に減価した評価になる理由は以下の通りです。
退職金が額面額より大幅に減価した評価になる理由 | |
① | 退職金は4分の3が差押禁止財産であり、債権者としては残り4分の1だけを前提に回収を考える必要があること(民事執行法152条2項) |
② | 実際に退職していない場合、退職時までに勤務先が倒産したり、懲戒解雇で退職金が不支給になる可能性があるなど、退職金は不確実な財産であること |
以上の通りですが、すでに退職して未支給の場合や、近く退職予定の場合は、②の理由は当てはまりづらいため、支給や退職までの期間等を考慮して、最大で額面の4分の1が財産として扱われます。
⑺ 不動産
不動産は、資産価値が高いと一般に考えられているため、無担保の不動産があれば、原則として破産管財事件に振り分けられます。また、担保付きでも不動産価値より被担保債権が小さい場合は、破産管財事件に振り分けられます。
担保付きで、不動産価値より被担保債権が大きい場合(オーバーローン)は、以下の扱いになります。
オーバー |
|
① | 被担保債権が固定資産税評価額の2倍を超える場合は、実質的価値がないものとして扱われ、他の問題がなければ同時廃止へ振り分けられます。 |
② | 被担保債権が固定資産税評価額の1.5倍超~2倍までの場合で、被担保債権が査定書の評価額の1.5倍を超えるときは、実質的価値がないものとして、他の問題がなければ同時廃止へ振り分けられます。 |
③ | 被担保債権が固定資産税評価額の1.5倍超~2倍までの場合で、被担保債権が査定書の評価額の1.5倍以下のときは、破産管財に振り分けられます。 |
④ | 被担保債権が固定資産税評価額の1.5倍以下の場合は、破産管財に振り分けられます。 |
⑻ 自動車
自動車は、以下の場合、原則として価値がないものとして扱われ、他の問題がなければ同時廃止へ振り分けられます。
自動車を所有していても同時廃止に振り分けられるケース | |
① | 国産自動車で初年度登録から7年以上経過している場合 |
② | 軽自動車で初年度登録から5年以上経過している場合 |
一方、外国産自動車や新車価格が300万円以上の場合、時価額が財産として扱われます。
⑼ 自動車以外の動産(貴金属・着物・電化製品等)
自動車以外の動産(貴金属・着物・電化製品等)は、時価額が財産として扱われます。
⑽ 株式・会員権等①~⑨以外の財産
株式・会員権等は、時価額が財産として扱われます。
⑾ 近日中に取得が見込まれる財産
近日中に取得が見込まれる財産があっても、20万円未満であれば、他の問題がなければ同時廃止に振り分けられます。
⑿ 過払金
平成19年(2007年)頃以前から、消費者金融やクレジットカード会社との取引があり、過払金が発生している場合は、以下の取り扱いになります。
ア 過払金を回収済みの場合
回収した過払金から回収のための弁護士費用を控除した金額について、現金+普通預貯金として扱われます。そのため、現金+普通預貯金+過払金-回収のための弁護士費用で50万円以下であれば、他の問題がなければ同時廃止に振り分けられます。
イ 回収未了の過払金の額面額の合計が30万円未満の場合
回収未了の過払金の額面額の合計が30万円未満の場合、回収したとしても、回収の際の交渉による減額、回収費用等を考慮すれば、20万円未満の財産と同視できるものとされています。そのため、回収未了の過払金の額面額の合計が30万円未満の場合、他の問題がなければ同時廃止に振り分けられます。
ウ 回収未了の過払金の額面額の合計が30万円以上の場合
回収未了の過払金の額面額の合計が30万円以上の場合、回収の際の交渉による減額、回収費用等を考慮したとしても、20万円未満の財産と同視することはできないものとされています。そのため、回収未了の過払金の額面額の合計が30万円以上の場合、破産管財に振り分けられます。
財産の評価方法は以上の通りですが、弁護士に自己破産を依頼した後に財産を換価して、現金・普通預貯金になっているケースがあります。この場合、元の財産があるものとみなす取り扱いも考えられるところですが、同時廃止と破産管財の振り分け基準上は、現金・普通預貯金として扱われます。
同じ項目の中で複数の財産がある場合、例えば保険が2つあって、解約返戻金が15万円と10万円の場合、解約返戻金合計で25万円の価値があるため、破産管財に振り分けられます。
弁護士によるまとめ

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