コラム

2025.09.30

介護事業の代表者の方へ:破産を考えたときに知っておきたいこと

~介護事業経営者が抱える特有の悩みにお答えします~

「利用者に迷惑をかけてしまう」「従業員の雇用を守れない」「地域の介護を支えられなくなる」…介護事業を営む代表者の方から、このような切実なご相談を受けることが増えています。

介護事業は、地域社会を支える公共性の高いサービスです。だからこそ、経営が行き詰まったときの判断は他の業種以上に重く、複雑な問題が絡み合います。

「破産なんてできない、利用者が困ってしまう」という責任感の強い経営者の方ほど、一人で悩みを抱え込んでしまいがちです。でも、適切な対応をすれば、関係者への影響を最小限に抑えながら手続きを進めることができます。

介護事業ならではの特殊事情を踏まえ、実際に皆様が心配されていることを中心に、できるだけわかりやすくお話しします。

1. 破産申立てについて

申立ての準備段階:資料不足でも申立て可能

介護事業の代表者の方からよく「帳簿がきちんと整理できていない」「経理資料が不完全だから申立てできない」というご相談を受けます。しかし、経理資料等の原資料が不足している場合でも、弁護士が経理担当者や代表者から聴取した内容に基づいて申立書類を作成し、資料が不備である旨の上申書を添付すれば申立てが可能です。

「資料が完璧でないと申立てできない」ということはありませんので、経理状況に不安があっても早期の相談をためらう必要はありません。

弁護士費用・予納金の準備:介護事業者に多い資金調達方法

破産申立てには、弁護士費用や予納金が必要です。「そんなお金があるなら破産なんてしない」と言われる方が多いのですが、これは、手続きを進めるために絶対に必要なお金です。

介護事業の代表者の方に多い資金調達方法:

  • 生命保険の解約返戻金:代表者が加入している生命保険を解約
  • 親族からの援助:家族や親戚からの借用
  • 退職金積立の解約:小規模企業共済等の解約
  • 個人資産の売却:自家用車や貴金属等の売却

多くの方がこれらの方法で費用を工面されています。

2. 介護事業特有の問題と代表者が気をつけるべきこと

利用者とご家族への対応:最も重要かつ困難な課題

事業停止の告知タイミングと方法

介護事業の破産で最も難しいのが、「いつ」「どのように」利用者と家族に伝えるかということです。

告知が早すぎる場合の問題
  • 利用者・家族の不安や混乱が長期化
  • 他事業所への移行が完全に整わない段階での告知による不安
  • 職員の動揺による一時的なサービス品質低下
告知が遅すぎる場合の問題
  • 代替サービス確保の時間不足
  • 利用者・家族の怒りや不信感増大
  • 法的な説明義務違反のリスク

適切な告知のタイミング: 破産申立ての準備が整い、ある程度の代替サービス確保の見通しが立った段階で、速やかに告知することが重要です。

利用者・家族への具体的な説明方法

説明会の開催
  • 利用者・家族向けの説明会を開催
  • 高齢者や認知症の方にも理解できるよう、わかりやすい言葉で説明
  • 質問や不安に個別に対応する時間を十分に確保
書面での通知
  • 事業停止の理由と今後のスケジュールを書面で通知
  • 代替サービスの案内や相談窓口を明記
  • 緊急連絡先の提供
個別面談の実施
  • 特に配慮が必要な利用者については個別面談を実施
  • 医療的ケアが必要な方への特別な配慮
  • 家族の経済状況等に応じたきめ細かい対応

代替サービス確保の具体的方法

地域包括支援センターとの連携
  • 地域包括支援センターに状況を説明
  • 利用者の代替サービス確保について協力を依頼
  • ケアマネジャーとの連携による円滑な移行支援
他の介護事業者との調整
  • 地域の同種サービス事業者への受け入れ依頼
  • 利用者の特性に応じた適切な事業所の選定
  • 引継ぎ情報の適切な提供
行政機関との連携
  • 市区町村の介護保険課への報告と相談
  • 緊急時の公的サービス利用についての調整
  • 特別な配慮が必要なケースへの行政支援要請

職員への対応:雇用と生活を守るための具体的措置

事業停止の説明と今後の方針

全職員説明会の開催
  • 代表者が直接、全職員に対して事業停止の理由を説明
  • 今後のスケジュールと職員への影響を具体的に説明
  • 質問や不安に対する誠実な回答
個別面談の実施
  • 各職員の雇用形態(正社員、パート、派遣等)に応じた個別説明
  • 個人の事情(家族構成、経済状況等)を踏まえた相談
  • 再就職支援の具体的な方法を個別に検討

給与・賞与の支払いと法的保護

介護事業の破産では、職員の給与について以下の保護措置があります:

労働債権の優先的取扱い
  • 職員の給料は「優先的に支払われる債権」として法的に保護
  • 退職金についても一定額まで優先的取扱い
未払賃金立替払制度の活用
  • 条件を満たせば未払い給与の8割程度を国が立て替え
  • 手続きに必要な書類の準備と申請支援

財産の扱いで絶対に避けるべき行為

同族経営でよく問題となる親族への支払い

介護事業者は中小規模の同族経営が多く、破産直前の親族への支払いが後で大きな問題になることがあります。

絶対に避けるべき支払い

労働者と認められない親族役員への退職金
  • 会社の重要な経営方針決定に関与していた親族
  • 実質的に経営者と同等の立場にあった家族
  • これらの者への退職金支払いは「偏頗弁済」として問題視
過大な役員報酬や特別手当
  • 破綻直前の役員賞与や特別功労金
  • 実際の労働に見合わない高額報酬
  • 「調整手当」等の名目での不明瞭な支払い

財産隠匿・不当処分の具体例と対策

避けるべき行為
  • 会社の不動産を親族名義に移転
  • 会社の預金を個人口座に移動
  • 会社の備品・設備を不当に安い価格で売却
  • 取引先への優先的な返済(特定の業者だけに支払い)
適切な財産管理
  • すべての財産を現状のまま保全
  • 破産管財人への適切な引継ぎ準備
  • 取引記録の整理と保管
  • 不明瞭な資金移動の回避

財産散逸防止義務の具体的な内容

破産申立てを受任した弁護士は、会社の財産が不当に失われることを防ぐ「財産散逸防止義務」を負っています。代表者にはこの義務への協力が強く求められます。

具体的な協力内容
  • すべての財産の現状維持
  • 新たな債務の負担禁止
  • 既存債権者への優先的返済禁止
  • 財産の売却・処分の事前相談
違反した場合のリスク
  • 代表者個人への損害賠償請求
  • 申立代理人弁護士の責任問題
  • 破産手続での否認権行使による財産回復
  • 刑事責任追及の可能性

介護報酬と債権管理の特殊性

介護報酬請求の継続と回収

破産申立て後も、既に提供したサービスの介護報酬は重要な財産として回収する必要があります。

請求可能な介護報酬
  • 破産申立て前に提供したサービス分
  • 国保連合会への請求がまだ完了していない分
  • 利用者負担分の未収金
請求事務の継続体制
  • 請求事務担当者の確保と業務継続
  • 必要書類(サービス提供票等)の整理と保管
  • 国保連合会との連絡調整
回収資金の適切な管理
  • 回収した介護報酬の破産管財人への速やかな引継ぎ
  • 個人用途での使用厳禁
  • 適切な会計処理の維持

利用者からの預り金の取り扱い

施設系サービスや通所系サービスでは、利用者から以下のような預り金があることが多いです:

一般的な預り金の種類
  • おやつ代、日用品代
  • 外出時の費用
  • 理美容代
  • 衣類クリーニング代
  • 医療費の立替分

敷金・保証金等の処理

介護事業では、以下のような敷金・保証金の処理も必要になります:

事業所の賃貸借契約
  • 事務所・施設の敷金回収
  • 原状回復義務の適切な履行
  • 賃貸借契約の適切な解約手続き
利用者から受領している保証金
  • 入居一時金の返還義務
  • 退去時の精算処理
  • 契約書に基づく適切な計算

行政との関係で注意すべき点

介護保険事業者としての各種手続き

破産により事業廃止する場合、以下の行政手続きが必要になります:

事業廃止届の提出
  • 各サービス種別ごとの廃止届
  • 廃止予定日の事前通知
  • 利用者への影響を考慮した廃止時期の調整
指定の取消手続き
  • 介護保険事業者指定の取消申請
  • 関連する指定の一括処理
  • 取消日の適切な設定
行政への報告義務
  • 事業停止の理由と経過の詳細報告
  • 利用者の移行状況についての報告
  • 職員の雇用状況についての報告

3. 代表者に課せられる法的義務と協力の重要性

破産管財人への協力義務の具体的内容

破産手続において、代表者には破産管財人が行う調査に協力する義務があります。介護事業の場合、以下のような特殊な調査項目があります:

財産状況の詳細説明

  • 介護機器・設備の詳細リスト作成
  • 利用者との契約関係の整理
  • 職員の雇用関係の詳細説明
  • 行政との関係書類の整理

事業内容の詳細説明

  • 各サービス種別の詳細内容
  • 利用者の特性と必要な配慮事項
  • 職員の専門性と配置状況
  • 地域での事業所の役割と位置づけ

面談への出席義務

破産管財人からの面談要請には必ず応じる必要があります。

債権者一覧表と重要財産開示の義務

債権者一覧表作成時の注意点

介護事業の場合、債権者が多岐にわたるため、詳細な整理が必要です:

主要な債権者の種類
  • 金融機関(銀行、信用金庫等)
  • 取引先(医薬品業者、食材業者、清掃業者等)
  • リース会社(介護機器、車両等)
  • 職員(未払給与、退職金等)
  • 行政(介護報酬返還金等)
  • 利用者(返還すべき前払金等)
正確な債権者情報の重要性

申立て後に代位弁済等によって債権者に変動が生じた場合、訂正した債権者一覧表を提出する義務があります。特に介護事業では、保証協会等の代位弁済が発生することが多いため、継続的な情報更新が重要です。

重要財産開示義務の具体的内容

破産手続開始決定後遅滞なく、以下の財産内容を記載した書面を裁判所に提出する必要があります:

不動産
  • 事業所の土地・建物
  • 代表者個人所有の不動産
  • 抵当権等の担保権の詳細
現金・預貯金
  • 会社名義のすべての口座
  • 代表者個人名義の口座(事業関連分)
  • 現金残高の正確な把握
介護事業特有の財産
  • 介護機器・設備(車椅子、ベッド等)
  • 車両(送迎車、訪問用車両等)
  • 介護ソフトウェア・システム
  • 利用者との契約関係(無形資産として評価される場合)

義務違反のリスクと刑事罰

これらの義務に違反した場合、深刻な法的責任を問われる可能性があります:

民事上の責任
  • 破産管財人からの損害賠償請求
  • 債権者からの直接的な損害賠償請求
  • 役員責任の追及
刑事上の責任

説明義務に違反して説明を拒んだり、虚偽の説明をした場合、刑罰罰を受ける可能性があります。

具体的な違反行為の例
  • 破産管財人の面談要請を無視
  • 財産状況について虚偽の説明
  • 重要書類の隠匿や破棄
  • 債権者集会への無断欠席

4. 代表者個人と家族への影響

個人保証債務の問題と対応策

中小の介護事業者では、代表者が会社の借金について個人保証している場合がほとんどです。法人の破産により、これらの保証債務が現実化します。

家族への影響と対策

配偶者への影響

配偶者名義の財産の取り扱い
  • 純粋に配偶者の収入から形成された財産は基本的に保護される
  • 配偶者のパート収入で積み立てた貯金等は問題なし
  • 会社の事業資金を配偶者名義で管理していた場合は問題となる可能性
配偶者の就職への影響
  • 介護業界での就職には通常影響しない

子供への影響

教育費の確保
  • 奨学金制度の活用が可能
  • 親の破産が子供の進学に直接的な法的影響はない
子供の将来への影響
  • 就職活動への直接的影響はない
  • 金融機関での借入時に影響する可能性
  • 心理的な影響への配慮が重要

5. なぜ早期の弁護士相談が重要なのか

利用者への影響を最小限に抑えるメリット

十分な移行期間の確保

早期相談により、以下の十分な時間を確保できます:

代替サービス確保の時間
  • 地域の他事業所との調整期間
  • 利用者の特性に応じた適切な移行先選定
  • 特別な配慮が必要な利用者への個別対応時間
利用者・家族への説明時間
  • 段階的で丁寧な説明機会の設定
  • 個別相談時間の十分な確保
  • 不安や質問に対する丁寧な対応
関係機関との調整時間
  • 地域包括支援センターとの連携
  • ケアマネジャーとの詳細な引継ぎ
  • 行政機関との適切な相談・調整

混乱・パニックの防止

十分な準備期間があることで:

  • 利用者・家族の急激な不安を防げる
  • 計画的で段階的な移行により混乱を最小化
  • 緊急事態的な対応による二次的被害を防げる

職員の雇用と生活を守る

未払賃金立替払制度の円滑活用

早期の専門家関与により:
  • 制度活用のための書類準備が計画的に実施可能
  • 労働基準監督署との事前相談により手続きが円滑
  • 職員への制度説明と不安解消が十分に実施可能
制度活用の具体的な流れ
  1. 事前準備:賃金台帳等の必要書類整理
  2. 破産申立て:裁判所での手続き開始
  3. 労基署相談:立替払い制度の具体的手続き確認
  4. 申請書類作成:各職員分の申請書類準備
  5. 申請・給付:実際の立替払い実施

財産保全と債権者利益の最大化

財産散逸の防止

事業停止から破産申立てまでの期間が長引くと:

  • 介護機器・設備の劣化や紛失
  • 重要書類の散逸
  • 売掛金(介護報酬等)の回収困難
  • 不適切な財産処分のリスク増大
早期申立てにより:
  • 現状のまま破産管財人に適切に引継ぎ可能
  • 財産価値の保全
  • 効率的な換価処分
  • 結果として債権者への配当増加

介護報酬等の確実な回収

回収可能な債権の確保
  • 国保連合会への未請求分の確実な請求
  • 利用者負担分の適切な回収
  • 行政等への各種請求権の保全
回収体制の維持
  • 請求事務担当者の確保
  • 必要書類の適切な保管
  • 回収資金の適切な管理

6. 相談時の準備と費用について

相談時に準備すべき資料

完璧な資料は不要ですが、以下があると相談がスムーズに進みます:

基本的な経営資料

財務関係
  • だいたいの借金の額がわかるもの(返済予定表、借入残高証明書等)
  • 会社の通帳(メインバンクのもの)
  • 代表者個人の通帳
  • 最新の決算書(2~3期分あれば理想)
契約関係
  • 主要な借入契約書
  • 重要な取引先との契約書
  • 施設の賃貸借契約書
  • リース契約書(介護機器、車両等)

介護事業特有の資料

行政関係
  • 介護保険事業者証
  • 各サービスの指定証
  • 最新の指導監査結果通知書
  • 行政からの各種通知書
利用者関係
  • 利用者数の推移がわかる資料
  • 主要な利用契約書のサンプル
  • 利用者からの預り金の状況がわかる資料
職員関係
  • 職員数・給与台帳
  • 未払給与の概算額
  • 主要な雇用契約書
収入関係
  • 介護報酬の入金状況
  • 国保連合会からの通知書
  • 利用者負担金の収入状況

相談のタイミング

早期相談をおすすめするケース

以下の状況になったら、すぐに専門家に相談することをお勧めします:

資金繰りの問題
  • 職員の給与支払いが困難
  • 借入金の返済が滞り始めた
  • 取引先への支払いが遅れがち
利用者関係の問題
  • 利用者数の大幅な減少
  • サービス提供体制の維持困難
  • 利用者からのクレーム増加
職員関係の問題
  • 職員の大量退職
  • 必要職員数の確保困難
  • 職員の士気低下
行政関係の問題
  • 指導監査での重大な指摘
  • 改善計画の実行困難
  • 指定取消の可能性

「まだ大丈夫」は危険な判断

「ギリギリまで頑張ってみよう」という気持ちはよくわかりますが、介護事業の場合、以下の理由で早期判断が重要です:

利用者への影響の深刻さ
  • 代替サービス確保には時間がかかる
  • 特に入居系サービスでは住む場所の問題に直結
  • 医療的ケアが必要な利用者への影響は深刻
職員の生活への影響
  • 介護職員は転職市場で引く手あまた
  • しかし転職には一定の時間が必要
  • 給与未払いによる生活困窮のリスク
地域社会への影響
  • 介護基盤の突然の喪失
  • 他事業所への負荷集中
  • 地域の介護システム全体への影響

最後に:一人で背負い込まず、勇気を出してご相談を

介護事業経営者の特殊な責任感

介護事業の経営者は、利用者や職員、地域社会に対する責任感が人一倍強い方ばかりです。「自分が何とかしなければ」「みんなに迷惑をかけてしまう」という気持ちで、一人で悩みを抱え込んでしまいがちです。

この責任感の強さは、介護事業経営者の素晴らしい資質です。しかし同時に、適切な判断のタイミングを逸してしまう原因にもなりかねません。

介護事業の破産は決して珍しいことではありません。多くの経営者が同じ困難を乗り越え、新しい形で社会に貢献し続けています:

新たな事業での活躍

  • 異なる形態での介護事業再開
  • 介護関連のコンサルタント業務
  • 福祉用具販売等の関連事業

培った経験・ノウハウの活用

  • 他事業所での管理職として活躍
  • 職員研修等での講師活動
  • 介護制度改善への提言活動

地域社会への継続的貢献

  • ボランティア活動での地域貢献
  • 介護予防事業への参加
  • 高齢者支援活動のリーダーシップ

勇気を出して一歩を踏み出してください

破産を考えなければならない状況は、経営者にとって人生最大の危機だと思います。「情けない」「申し訳ない」という気持ちでいっぱいでしょう。

しかし、その勇気ある一歩が、利用者、職員、地域社会、そしてあなた自身の将来を守ることにつながります。

多くの介護事業経営者が、適切な専門家のサポートを受けて、この困難を乗り越えています。あなたも必ず乗り越えることができます。

介護事業で培った経験、利用者への思い、職員への愛情、地域社会への貢献意識、これらの素晴らしい資質は、形を変えてもきっと活かされる場所があります。

勇気を出して、まずは専門家にご相談ください。必ず道は開けます。

破産すべきかどうか
悩んでいる⽅の
ご相談も承ります

弁護士法人みお綜合法律事務所の無料相談をご利用ください。経験豊富な弁護士が解決策をご提案します。

初回無料相談に
お持ちいただきたい資料

初回の弁護士相談無料